今日は、国民年金の時効についてお話します。
時効には、年金給付を受ける権利(これを基本権といいます)と年金給付の支給を受ける権利(支分権といいます)がありますが、基本権については支給すべき事由が生じた日から5年で消滅します。例えば、老齢基礎年金の場合だと支給開始年齢に達した日から5年で消滅となります。支分権については、支払期月の翌月の初日から5年で消滅します。例えば、2月3月分の年金だと支払期月は4月になるので、その翌月の5月1日が起算日となり、この日から5年で消滅です。
国年法では、基本権又は支分権は会計法を適用しないとしています。このあたりは労災保険と違うところですよね。ただし、行政上の取扱いは異なります。通達では、基本権の時効は援用しないとされ、支分権の時効は援用するとしています。つまり、実務上は年金の請求そのものは5年を経過しても行うことができます。それは、基本権の援用をしないからです。しかし、支分権の時効については援用するとされています。ここがポイントです。つまり、請求は受けつけて裁定はするけれど、支分権については5年前の分は時効になっているから支給しないと政府は主張するわけです。裁定請求し忘れた受給権者からしてみれば、納得できないかもしてません。
そこで、今回法改正があり、70歳以上80歳未満の人が、老齢基礎年金を請求し、かつ請求時点において繰下げの申出ではなく、本来受給を選択した場合、請求した時点の5年前に繰下げの申出上がったものとみなして、年金を支給することとしました。さらに支給する年金は受給権発生から請求の5年前までの月数に応じて増額を行うこととしたのです。これを「特例的な繰下げみなし増額制度」といいます。ぜひ時効と関連づけて押さえておいてください。
ただ、この改正については異論もありました。そもそも65歳の段階で請求せず繰下げの申出を考えていた人が、その後事情変更(例えば病気や、事業がうまくいかず相当額の金銭が必要となった)により、急遽、本来年金を請求して5年分を一括してもらうことを求めた場合にまで、増額措置を取る必要があるのかという点です。このような措置は、経済的な理由で繰下げ受給を選択できなかった人との公平性の観点から問題があるということです。試験にはこのような事情が出ませんが、どうして?という疑問を持つことも大事かなと思います。