今日は、いよいよ労基法の時効の改正についてお話しします。民法改正により使用人の給料等に関する消滅時効(1年)が廃止されました。労基法の賃金請求権の時効は2年(改正前)というのは覚えていますか?これは民法の1年では労働者保護に欠けるとの観点から労基法において2年と定めたのです。今般、民法の1年の消滅時効が廃止になったことに伴い、労基法でも時効の見直しについて、労働政策審議会で議論がされました。特に実務に与える影響が大きいのは賃金と年休です。今日は賃金請求権の時効について解説します。
それでは審議の結果、労基法ではどのような結論に至ったのでしょうか。まず①賃金請求権については、民法の一般債権の消滅時効期間とのバランスを踏まえ、5年とする。②起算点は現行の労基法の行政解釈を踏襲し、これを行使することができる時から5年(つまり賃金支払日から5年)とし労基法に明記する、ということです。
皆さんは賃金請求権の時効が2年から5年になるとしたら、どう思われますか。例えば割増賃金の請求です。実は退職後に「残業代が未払いだ」として使用者に割増賃金を請求してくるケースがあります。今までの時効は2年でしたので、2年前まで遡って支払えばよかったわけです。しかし、時効が5年となり、5年前までの割増賃金を支払うとなるとこれは使用者にとっても酷な話です。そこで、当分の間、労基法に規定する記録の保存期間に合わせて3年間としました。企業側の負担と未払い賃金などの労働者の保護の観点からバランスを取った形です。
余談ですが、監督署の調査で割増賃金の不払いを指摘され「3ヶ月分をさかのぼって支払うよう指導された」ということがあります。時効は2年なのに、現実は違うという話です。これはかつて通達があり、「割増賃金の遡及期間については3か月」とされていたからです。しかし、この通達は現在廃止されており、監督官によってバラバラになっています。3か月と指導される場合もあれば2年前まで遡りなさいと指導される場合もあります。今般時効が3年に改正されました。実務では今後の労基署の対応が気になるところです。
最後に退職手当の話をします。退職手当の請求権は改正前と同じ5年間です。退職手当は高額になることが多く、資金の調達ができないこと等を理由に、その支払いに時間がかかることがあるため、現行の5年間を維持しました。
次回は、賃金以外の請求権についてお話しします。ところで、今日の日経新聞の2面に、「雇調金、中小の申請後押し」社労士の連帯責任解除との記事がありました。これは社労士が雇調金の相談を断るケースが多く、その理由として助成金の不正受給が発覚した場合、申請を代行した社労士にも罰則が課されるなどの可能性があるからです。そこで今回、厚労省は連帯責任が課される規定を特例的に解除する方向で検討に入ったというものです。私の周りの社労士でも中小企業のためにほぼボランティアのような形で助成金の相談にのっている方がいらっしゃいます。頭が下がる思いです。